巨匠たちはいかにぎりぎりのところで踏みとどまるのか〜Bill Evansと

Bill EvansKeith Jarrettというとそのお耽美な演奏でジャズをあまり聴かない人(含む私)にも人気なわけであります。もちろん美しい演奏は理論の裏づけがあるわけで、玄人の皆さんにも人気のピアニストですね。
ただ、あまりにもマジでお耽美演奏にはまりすぎると(某坂○○一)失笑を買う危険性があるわけで、その点このあたりの巨匠はボケ要素を導入することで失笑を買う可能性を回避しております。
例1 Keith JarrettGlenn Gouldみたいになにやら演奏時にうなっております。Gouldはなかなかの美声の持ち主でそのうなり声も悪くないのですが、翻ってJarrett氏の場合、サルのようなキーキー声でソロとユニゾンしており、ブランデーグラス片手にアルバムを聴くことを許さない異様な雰囲気をかもしております。

例2 Evans氏の場合はどうか?あまりEvans氏のアルバムを持っていませんが、私の知る限り妙な声でうなっている印象はありません。有名なPortrait in Jazz(図1)のジャケのようになかなかEvans先生は男前で、隙のないお耽美空間を形成しております。まったく困ったことに社長島耕作の絶賛を受けてしまっています(図2)。


ボケ要素が入ってないって?そうです、この時点では氏は大マジでお耽美をやっていたのでが、おそらく島耕作の絶賛を受けて自分のキャラというものを真剣に再検討したのではないかと思われます。

その結果、氏の新しいスタイルは最晩年に完成するに至ります(図3)。ほとんど浮浪者のようなスタイルのおっさんが耽美な演奏を行う、というこの倒錯。このライブの1月後に肝硬変で死去ということで、表層的に浮浪者然としたのではなく、おそらく全生活スタイルをノーフューチャーで統一したのは間違いないでしょう(ヤクをやるのに忙しくて髪を整えたりひげをそったりする暇がないといった感じか)。うなり声など演奏面に直接のボケ要素を導入していない分Evans氏のほうがJarrett氏よりも一段上のステージにいるのは間違いありますまい。

なお同系統の離れ業が聴けるアルバムとして、Gavin BryarsのJesus' Blood Never Failed Me Yetがあります。このCDでは浮浪者のおっさんのつぶやき歌がフルオーケストラをバックに70分以上ループされます。さらに後半から終わったおっさんの代表格、Tom Waitsもデュエットで参加するという駄目押しであります。涙なくして聴けぬ音楽であります(この作品をミックスしている際に、うっかりスタジオの扉をあけっばなしにしていたところ、通りがかった人が皆泣いていたという逸話がある)。